Stap事件 ― 若山氏率先したSTAP論文撤回の謎について ②

                         ==== STAP幹細胞の論理破綻  ====

 

若山氏が樹立したSTAP幹細胞株の万能性の証拠以前に、STAP幹細胞は、小保方氏が作製し提供したSTAP細胞由来のものである証拠が無く、論文発表後まもなく一流の学者には捏造が疑われていた。

 

2016年「オートファジー」でノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏(東京工業大学栄誉教授)が 受賞決定直後の10月3日夜、東京工業大学で記者会見して繰り返し語ったのは、「短期的な成果に直結しない基礎科学を追究する科学的精神」の重要性だった。

それがなかなか許されなくなっている社会への憂いだった。

「分かったようで何も分かっていないことが、生命現象には特にたくさんある。えっ、なんで?ということを、とても大事にする子供たちが増えてくれたら、私は日本の将来の科学も安泰だと思う。そういうことがなかなか難しい世の中になっている。」

政府による学術研究予算の削減が続いている。

そして成果主義による予算確保の競争が厳しい。

それが、日本の基礎研究の基盤を弱くしている実態を大隅氏はあからさまに語ったと思われる。

日本を代表する大学や研究所の成果ありきの研究姿勢に一石を投じたと言えよう。

 

正にSTAP幹細胞は成果主義で結果を急いだ失敗例のように思われる。 

2014年の独立行政法人理化学研究所(通称:理研)が、政府が望む高度でスピーディな研究成果の国際的競争力強化の求めに応じ、特定国立研究開発法人(所謂スーパー法人)の指定を受けようとしていた。

正に日本の頭脳を結集した研究機関としての際立った研究事例と研究展望を示すことは当然の成り行きだったに違いない。

その代表的成果物として祭り上げられたのはSTAP細胞論文だった。

そこに述べられたSTAP幹細胞は無限に増殖する万能細胞で、iPS細胞やES細胞を超える分化能に持ち、簡単な操作によってもたらされるので、その実用性が期待されるものだった。

2014年1月28日に理研が派手な演出で大々的にその成果を公表した。

前代未聞の成果の祭典の様相だった。

世界中の科学コミュニティーからは羨望の眼差しが集中した。

この研究分野では世界的に知名度の高い笹井氏や若山氏とともに登場した無名の女性研究者の小保方晴子氏がSTAP細胞研究の主役として話題が沸騰した。

マスコミは話題豊富な好材料に恵まれ、連日STAP細胞とともに小保方氏の話題が沸騰した。 

 

その2日後の1月30日にネーチャー誌に論文が発表されると、専門家は一斉に、テレビ番組のなんでも鑑定団の審査員のように、科学的な懐疑心を一方で持ちながら、興味深く論文を読んだはずである。

この論文の肝は、刺激惹起性多能性獲得細胞( Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cellsが所謂STAP細胞の生成メカニズムによって誕生した事である。

具体的には、

 “酸という刺激によって、分化したリンパ球の細胞が初期化してSTAP細胞となり、それを然るべき培地で培養すると無限に増殖するSTAP幹細胞になる”

ことが論文のポイントである。

 

小保方氏はOct4陽性スフェア細胞塊は、バカンティー説の体細胞の中にあるspore-like-stem cells(胞子様幹細胞)の抽出実験を重ねているうちに、セレンディピティー的に物理化学的な刺激によって惹起(induction )されてできることを発見したのだった。

特に免疫学者は、刺激による初期化への変換(induction)メカニズムの対しての科学的証拠は1点に絞られていた。

マスメディアに取り上げられ世間は騒然としていた研究不正の問題点とは異なり、科学的に本物かどうかをしっかり吟味すべきポイントは、一流の専門家たちには明確なものだった。

この時、論文にはすでに疑問を呈する不満足さを彼らは抱いていた。

 

そして、3月5日世界中で再現実験をする研究者達から再現性が得られていないとの情報に応え、理研CDBが実験プロトコル発表した。

"Essential technical tips for STAP cell conversion culture from somatic cells" Haruko Obokata, Yoshiki Sasai, Hitoshi Niwa

このプロトコールにSTAP幹細胞8株全てにTCR再構成が無いことが記載されていた。

http://www.nature.com/protocolexchange/protocols/3013

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“We have established multiple STAP stem cell lines from STAP cells derived from CD45+ haematopoietic cells. Of eight clones examined, none contained the rearranged TCR allele, suggesting the possibility of negative cell-type-dependent bias (including maturation of the cell of origin) for STAP cells to give rise to STAP stem cells in the conversion process. This may be relevant to the fact that STAP cell conversion was less efficient when non-neonatal cells were used as somatic cells of origin in the current protocol”

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TCR再構成」こそがSTAP細胞の成り立ちを証明する根幹をなすものである。

T細胞は免疫学の最も重要な免疫細胞であって様々な病原体に対して抗体を作り出す特殊な能力を持っている。

ノーベル賞受賞者利根川進博士がそのメカニズムを解明した。

T細胞は一度分化すると、受容体部分の自己の遺伝子を自在に組み替え、いらない遺伝子を切り捨てるためにDNAの長さが短くなっている。

このTCR再構成をSTAP細胞は利用し、分化した細胞が初期化したこと判別する目印にしていた。

 

ところが、STAP幹細胞にはこのTCR再構成の目印が無かったことがプロトコールに記載された。

これを見た免疫学者を中心に、その筋の科学者や研究者達は、論理破綻したSTAP現象は本物ではないと結論付けた。

つまり、STAP細胞にあったTCR再構成がSTAP肝細胞やキメラマウスには検出されなかったわけで、若山氏のSTAP幹細胞は、小保方氏のSTAP細胞由来のものではないことになる。

 

免疫学の第一人者で、オプジーボ(PD-1抗体)ノーベル賞候補と目される

静岡県公立大学法人理事長 本庶 佑氏

は「STAP 論文問題私はこう考える」(新潮社「新潮45」July 2014 p28〜p33)での見解が一流の科学者の見解を代弁していると思われる。

http://www.mbsj.jp/admins/committee/ethics/20140704/20140709_comment_honjo.pdf

その重要な指摘部分を記載する。

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質問5

結論として今回ネイチャーに発表されたSTAP 論文は捏造と考えますか。

 

答え5

この論文において、最も重要な点はSTAP 細胞の定義に係わるところだと考えます。

即ち、T 細胞受容体遺伝子の再構成のパターンがSTAP 細胞の中にきちんと見つけられ、この目印が再び分化して生じた様々な組織の中にも同一の遺伝子再構成が見つけられるかどうかという点です。

ですから、著者らは記者会見で遺伝子の再構成があったと主張しました。

 

実は、大変驚いたことに再現性に疑問が浮上した後に(3 月5 日)小保方、笹井、丹羽によるプロトコール即ちSTAP 細胞を作成するための詳細な実験手技を書いたものが、ネイチャー・プロトコール・エクスチェンジというネット誌に発表されました。

これには、STAP 細胞として最終的に取れた細胞(STAP幹細胞)にはT 細胞受容体の再構成が見られなかったと明確に書いてあります。

 

もしこの情報を論文の発表(1月30日)の段階で知っていたとすると、ネイチャー論文の書き方は極めて意図的に読者を誤解させる書き方です。

この論文の論理構成は該博な知識を駆使してSTAP 細胞が分化した細胞から変換によって生じ「すでにあった幹細胞の選択ではない」ということを強く主張しております。

しかし、その根本のデータが全く逆であるとプロトコールでは述べており、捏造の疑いが高いと思います。

 

捏造かどうかの検証として、最も急いでやらなければならないことは、やったと書いてありながらデータが示されていないSTAP 細胞から生まれた動物の細胞中のT細胞受容体遺伝子の塩基配列の分析、またすでに存在しているSTAP 細胞(STAP幹細胞)塩基配列を調べることです。

これを公表すれば、STAP 細胞という万能細胞がリンパ球から変換したのかどうかに関しては明確な回答が得られます。

その結果で意図的な捏造があったかどうか確証できます。

 

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やはり免疫学者の吉村昭彦慶大教授も早くからTCR再構成に着目し、「万能細胞STAP幹細胞について吉村昭彦慶大教授が疑問投げかける」と題して2014年3月10日のJCnet.に、

「よくよく論文を見直すとT細胞分画由来のSTAP細胞からはマウスは作製されていないように思える。CD45+分画から造られたSTAP細胞由来のキメラであれば、調べてもT細胞の存在確率から言ってその子孫でTCR再構成が見られる可能性は低いのではないか。これでは議論しようがない。」

と述べ、根拠が明らかでないので学術的な論文価値の欠如を暴露していた。

http://n-seikei.jp/2014/03/stap-1.html

このように、免疫学者の専門的指摘においては、本物であれば実用性の高い無限増殖する万能細胞として価値の高いSTAP幹細胞なのだが、その実在性に関わる根幹が極めて曖昧な論文だと評価され、論理的にほぼ破綻した論文と見なされた。

 

TCR再構成の無いことに対して、

笹井氏は「①STAP細胞のなかにT細胞が含まれている確率はもともと低い、②マウスは1週齢で再構成が起きている確立もそれほど高くない、③STAP細胞からSTAP幹細胞になるのはその一部である。従って、STAP幹細胞にTCR再構成が見られなかったとしても、確率論からすると不思議ではない。」と述べた。

 

丹羽氏は、STAP細胞の塊の時点では、TCR再構成が確認されたことを述べた上で、幹細胞で確認できなかった理由について「(T細胞の数が少なく)TCR再構成を持つSTAP幹細胞が得られる確率は低い」と指摘。STAP細胞由来のキメラ胚においては、T細胞が、STAP細胞由来か、宿主由来か判定するのが難しい点も述べた上で、「4倍体のキメラでは、『微弱なもの(TCR再構成)が出た』というデータはあった」と述べていた。

 

しかし、こうした説明は実証データではなく、単なる言い訳にしかならなかったに違いない。

 

但しもしもTCR再構成の無い事実に反して、論文に載せたキメラマウス、STAP幹細胞、FI幹細胞を実際に確実に作ったと、若山氏がその成り立ちの正当性を堂々と説明し、自信を示しておれば、全く新規な現象の科学的な疑問点として、それなりの決着の仕方はあったかもしれない。

 

しかし、若山氏はこうした科学コミュニティーの厳しい見方に、恐怖を覚えて、撤退を急いだ。

 

若山氏は43株ものSTAP幹細胞を樹立していながら、その作製の正当性を誰にもあからさまに示すことができなかったのは、免疫学者が「これは論文のabstractの”induction”説を否定して結局cell-type-dependent=selection説を肯定するものではないか」と考察したように、論文から逸脱した「特殊な手技」が施され、脚色されていたからではないだろうか。

小保方氏の「あの日」に、最初に若山氏がキメラマウスに成功し、その残りの細胞をES細胞樹立用の培養液で培養してSTAP幹細胞を樹立した時の場面で、

「特殊な手技を使って作成しているから、僕がいなければなかなか再現がとれないよ。世界はなかなか追いついてこられないはず」

と語ったと書かれている。

そして、キメラマウスやSTAP幹細胞の作製については、 小保方氏にはその技を決して指導し教えることなく、若山氏が勝手にその後も進めて行ったことが記されている。

 

小保方氏が述べているように、ネーチャーのリバイスを経て、「現象の発見」がテーマでなく「新たな幹細胞株の確立」をテーマに様変わりしたアーティクル論文に仕上がったことが、若山氏の正にブラックボックス研究成果であり、「STAP細胞の作製の成功・存在の証明」は常に若山先生の説明責任を要する論文内容だったといえるのだ。

 

ところが、そのブラックボックスの実態は決して明らかにできない偽装があって、若山氏は、小保方氏を目隠しにしていた、若山氏にしかわかり得ないマウス系統や胚操作技術などのノウハウを巧妙に活用したものだったのではなかろうか。

それが若山氏の正に特殊な手技ではなかったか。

それ故に、論文が問題視されて、幹細胞の作り方に焦点が集まることは絶対に避けなければならなかった。

そこに衆目が向かないように若山氏は、小保方氏がES細胞を使用したように偽装したのだ。

 

 (但し、以上のお話は、小保方氏のパートが正常なものだったと確定していることを前提に考えた一つの仮説にすぎない)

 

(参考資料) 

http://juku.netj.or.jp/note/summer2014/080604_honjyo/

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NPO法人ネットジャーナリスト協会主催

科学オリンピックを目指す!創造性の育成塾2014 第9回夏合宿

 2014年8月6日 (水)4時限目 「STAP細胞はなぜ迷走したのか」

本庶 佑 先生

  静岡県公立大学法人 理事長 (文化勲章) 

(ビデオが収録されています)

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