Stap事件 ― STAP細胞にも復権の兆し (会社四季報ONLINE)

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iPS細胞治療事業化ならば注目はあの銘柄だ

STAP細胞にも復権の兆し

 
2016年06月25日
山中伸弥教授が指揮する京都大学iPS細胞研究所は同細胞の医療現場での実用化へ向けて研究開発に傾注(撮影:風間仁一郎)

 「STAP細胞」の一連の大騒ぎはいったい何だったのだろう。渦中の小保方晴子氏は一時、マスコミから寵児のようにもてはやされたがその後、世間から過剰な攻撃を受けて天国から地獄へ突き落とされた。

 しかし、同氏には復権の兆しが出てきた。手記である「あの日」はベストセラーになった。作家の瀬戸内寂聴さんとの女性誌での対談も読んだ人もいるだろう。同誌は研究内容についてあまり触れていない。むしろ、小保方氏の作家転向をにおわせるものだ。

 対談では騒動の異様さを赤裸々に語っている。STAP細胞をめぐる疑惑では大学や研究機関、さらには官僚機構の保身も浮き彫りになっている。一部には、「STAP細胞の存在」という本質をないがしろにしたとの指摘もある。ポピュリズム大衆迎合主義)は政治ばかりではない。アカデミアにも大衆迎合がまん延しつつあるのだ。

 米国のハーバード大学附属ブリガムアンドウィメンズホスピタルが、「STAP細胞の作成方法」に関する特許出願を世界各国で実施したことが明らかとなった。4月下旬には日本の特許庁長官宛てにも出願審査請求を提出。これが受理されてSTAP細胞技術が復権すれば、日本は1633年のガリレオ・ガリレイに対する宗教裁判を21世紀の生物学分野でやってしまうことになる。

 一方、iPS細胞は医療での事業化の動きが加速している。京都大学山中伸弥教授の世界初のiPS細胞作製から10年が経過し、世界中で治療へ向けた開発が進む。

再生医療領域での研究開発も加速

STAP細胞」で注目された小保方晴子氏の手記が話題に(撮影:ヒラオカスタジオ)

 同細胞を利用した再生医療具体化の動きも出てきた。再生医療は表皮や軟骨などの分野ですでに実用化されている。これまでの再生医療は「自家培養」が主流。自家培養は患者自身の細胞や組織を培養して再び、患者に移植するものだ。自分の細胞や組織であるため免疫抗体反応の副作用リスクがない。免疫抑制剤の投与も不必要だ。ただ、治療開始までには時間がかかる。コスト負担が大きいのも難点だ。

 このため、他人の細胞を利用した「他家培養」が再生医療の本格的な普及には不可欠、との見方が一般的だ。iPS細胞分野でも医療への本格普及を目指して、他家培養の研究開発が加速化する。

 もっとも、現時点では課題もいくつかある。研究開始には他人のiPS細胞の確保が欠かせない。研究者や企業が単独で他人のiPS細胞を調達するのは至難の業といえる。

 山中教授が指揮する京都大学のiPS細胞研究所は、研究開発費の調達で他の研究機関を凌駕するだけでなく、iPS細胞のストックでも圧倒的だ。同大学は豊富な備蓄iPS細胞を武器に、理化学研究所大阪大学、神戸市立医療センターなどとも連携して開発を進めると発表。これによってiPS細胞研究は大きく広がり、医療現場での利用が一気に現実味を帯びる。

 米国や英国でも官民が治療用のiPS細胞を凍結保存して供給する態勢を構築。グローバルな開発競争は今後、一段と激化するだろう。これに対して、STAP細胞はiPS細胞よりも簡易な手法での開発が可能。STAP細胞が復権すれば開発競争はさらにエスカレートしそうだ。

 iPS、STAP両細胞の研究には有力ベンチャー企業が多数かかわっている。一時は抗体医薬品や核酸医薬品などに主役の座を奪われつつあったが再び、増勢を強める公算が大きい。

 2013年にiPS研究のインフラを提供するリプロセル (4978)が上場。15年6月にはiPS技術をテコに眼科分野などで創薬を目指すヘリオス (4593)も株式を公開している。タカラバイオ (4974)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング (7774)セルシード (7776)といった再生医療関連企業への期待も高まる。

 同分野の非臨床試験などを手掛ける新日本科学 (2395)イナリサーチ (2176)なども技術進展に伴い新たな需要創出が期待されよう。武田薬品工業 (4502)アステラス製薬 (4503)大日本住友製薬 (4506)など同分野の研究開発で先行する製薬会社にも再評価の余地がありそうだ。