Stap事件-若山氏の「特殊な手技」が記載されなかったSTAP論文 ③
「核移植を一番の専門にしているのに、核移植のいらない初期化方法を発表して、自分で自分の首を絞めている論文の関係者です。」
これは正しく若山氏の本音を述べたものだと私は思う。
そう思う背景を述べてみよう。
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生命工学科 若山研究室 (発生工学研究センター)ホームページより
http://www.bt.yamanashi.ac.jp/modules/gaiyo/index.php?content_id=18
左: マイクロマニピュレーターという顕微鏡に接続した人工腕を用いて、目では見えない卵子やもっと小さな体細胞を自在に操作することができます。
右:卵子に体細胞の核を注入しているところ。
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若山照彦氏は世界で初めてクローンマウスを実現した人物であり、マイクロマニピュレータ操作の名手として知られる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E5%B1%B1%E7%85%A7%E5%BD%A6
1998年に若山氏は体細胞クローンマウスcumulinaを特技であるマイクロマニュピュレータによって(ホノルル法)はじめて成功した核移植技術の世界的権威である。
現在は周知のごとく、山梨大学発生工学研究センター長(生命工学科 若山研究室教授)である。http://www.bt.yamanashi.ac.jp/modules/gaiyo/index.php?content_id=18
ホームページには若山研の主役のマイクロマニピュレータが10セット稼働中とのことで、研究内容としてクローン技術(=核移植技術)が筆頭に紹介されている。
さて、核移植技術(クローニング)とは核置換動物(クローン)を作る技術である。
受精卵クローニングと体細胞クローニングに大別されるが、後者が現在のクローニングの主流である。
クローン作製は生命の神秘への挑戦であり、そのハードルは著しく高い。
その証拠にクローン動物の出生前、出生時そして出生後において様々な異常の発生があり、その成功率は極めて低い。
若山氏とっては、そうした問題点を克服し、ナチュラルな生殖現象を再現できる核移植技術を確立すること、それが「一番の専門」的な関心事なのである。
それを実現する上でいろいろやることはあるが、最大の課題は「核の初期化」を受精卵と同等にすることである。
http://www.les.yamanashi.ac.jp/modules/kenkyu/index.php?content_id=12
若山氏はこのような流れの中で、核移植ES細胞(nuclear transfer ES : ntES)を活用してクローン技術の向上を進めてきている。
例えば、米国からマウスの尻尾を送ってもらい、その細胞から(直接体細胞の核移植クローンをつくるのではなく)ntES細胞を作り、もう一度核移植してクローン個体を作ることに成功している。
若山氏は自分たちの研究の仕方(アプローチ)について過去に次のように述べていた
「クローンの特異的な異常を分子生物学的な手法で細かく解析して、原因およびメカニズムをつきとめ、それを基に成功率の改善を図る方法と、手当たりしだいに新しい薬品や核移植方法の技術的改良を試み、とにかく成功率の改善をしてしまい、従来法との違いをもとにメカニズムの解析をするという2つの方法がある。核移植はどちらかといえば職人技の世界で、分生物学的なアプローチより後者の方が向いていると筆者(若山氏たち)は考え、毎日、最大で1千個以上の核移植を行っているが今のところ手がかりは何も得られていない。だが、クローン技術は非常に重要なテーマであり、また、わが国が世界をリードしている分野でもある。筆者らはプロの職人(!?)の意地として、技術的なアプローチで次のブレークスルーをめざしている。」
そのブレークスルーのポイントは先に述べたように如何に「核の初期化」を受精卵に近づけることだろう。
以上のような若山氏のバックグランドがある中で、小保方氏のスフェア細胞に出会ったことは格別の意味を持っていたと思われる。
若山氏にとって、小保方氏のスフェア細胞はクローニング研究材料として興味深いものだったがゆえに、その多能性の評価を協力しようと思うのは何ら不思議なことではない。
そのスフェア細胞は3胚葉分化能や疑似テラトーマ発現までは確認できている。
欠点は細胞が弱く、増殖性に乏しいことだ。
細胞死には大別してアポトーシスと称するプログラムされた細胞死と、ネクローシスと称するプログラムされていない細胞死とがある。
ネクローシスは細胞質における障害が関係していることが知られている。
小保方氏は物理化学的な刺激によってほぼネクローシスに近い亜致死状態にした体細胞から、多能性を獲得したスフェア細胞(STAP細胞)を作った。その収率は7~9%と言われたが、細胞質にダメージを与えほとんどが死滅してしまうという細胞にとっては過酷なもので、生き残ったスフェア細胞も当然ながらダメージをうけていたと思われる。
そのために、笹井氏が奇しくも指摘したようにスフェア細胞が通常よりも小さい特徴を持っているが、それは細胞膜が破裂し細胞質が小さくなったからだろう。
折角、多能性を獲得しているスフェア細胞の核はダメージをうけた細胞質に保護されず、細胞の増殖力が乏しい。
そうしたスフェア細胞でダイレクトにキメラマウスを発生させることは全くできなかった。
そこで、クローン技術の有力な手段となってきた核移植ES細胞(ntES細胞)を応用しようとしたのではないか。
多能性を獲得したスフェア細胞の核移植した初期胚から胚盤胞まで培養すれば、ntES細胞が取得でき、元のスフェア細胞のゲノム保存を可能とし増殖性のある細胞として保存できる。
要するに小保方氏の多能性を獲得したスフェア細胞の核が確保されていることが重要なのだ。
だから、近年ゲノムを保存する常套手段としても知られるntES細胞に変化させて保存すれば、いつでもクローニングの実験に使えるようになる。
それは、恐らく若山氏の立場ならばアプローチの方法として想到する技術事項ではないだろうか。
更に、クローン胚の胚盤胞の内部細胞塊からntES細胞を採取すると同時に栄養芽層(栄養外胚葉)からntTS細胞を採取することも可能だろうし、核移植研究の要素を獲得できる。
若山氏は通常の体細胞核移植に対して、そのES細胞核移植の方がクローンの成功率は高いことを究明している。
果たして、小保方氏のスフェア細胞から作出したntES細胞やntTS細胞の核移植でクローンの成功率はどうなるのか?という新たな研究テーマが思い浮かぶに違いない。
そうした流れでの研究過程において、キメラマウスの作製や幹細胞株樹立ができ、光る胎盤試料が残されたとすれば、それは確かに多能性を獲得した小保方氏のスフェア細胞の核を活用した成果物に他ならないのではないか。
そうであるならば、STAP論文の刺激惹起性多能性獲得( Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)の意義は何ら損なわれていない。
若山氏にとって、彼の「特殊な手技」で小保方氏のスフェア細胞核の多能性を引き出すことに成功した貴重な研究成果だというプライドがあった。
理研は小保方氏を囲い込めば成果を大きく取り込めると姑息なことを考えたことは確かで、核移植を一番の専門にしている若山氏の大きなノウハウが隠された成果であったにもかかわらず、若山氏が決して論文作成を頼んでもいない理研が笹井氏の力でネーチャー誌に論文発表に成功し、事実と異なるトンデモナイ核移植のいらない初期化方法を発表してしまったから、論文の共著者として若山氏も載せられた以上「自分で自分の首を絞めている論文の関係者」になってしまったということだろう。
それ故に、理研が中心になって作成した「特殊な手技」抜きのSTAP論文を許容することはできず、なりふり構わぬ論文撤回に若山氏が動いたのではなかろうか。
それは結局、小保方氏に対しては卑劣な仕打ちとしか言いようのない事態になった。